2019年6月12日水曜日

オランダ出張報告 (2019/06/12)


お客様 各位
オランダ出張報告
株式会社中村農園
中村光輝

 私は先般のダッチ リリー デイズの期間中、64日から8日までオランダを訪問し、直近の動向を視察して参りましたので、以下に印象深い事柄をとりまとめご報告いたします。


〇フレッター社のOT-ハイブリッド
 世界最大のゆり育種会社であるフレッター社で注目したのはOTです。
昨今、オランダの球根生産者は新しくオリエンタルのライセンス(球根生産のための権利)を取得する人はおらず、世界的な需要に沿ってOTの生産を増やしています。フレッター社を始め多くの育種会社はこうした世界動向からオリエンタルの開発を休止し、OTの育種へと移行していることはご存知の通りです。OTは白の開発が先行して進み、花の色や形、向きなど日本でも受け入れられる特徴を持った品種が毎年発表されています。一方で、ピンクや赤は日本の嗜好に合うものではなく、中国など他の国の人が好む品種の開発が盛んに行われていました。
今回、フレッター社を訪問すると白のOTはさらに改良が進み、OTの欠点の一つであったリン付きを改善し、16-18サイズで5リンのもの(写真:左上)も出てきています。また、枝振りも良く、短くコンパクトになっているためオリエンタルと同じように扱える品種がいくつもありました。さらに、ピンクのOTも花形の完成度が高くなりオリエンタルと遜色なくなっています。花色のくすみが無くなり鮮やかで、はっきりとした色合いの品種がいくつも出てきています。また、今までは日本では赤紫や青紫に感じていた赤のOTも鮮やかで美しいものになりつつあります。
 さらに、世界に先駆けて花粉なしのOT品種(白)が発表されており、オリエンタルやアジアティックに限った特性ではなくなりました。今後の展開がとても楽しみです。
フレッター社によるOTの進歩は現在のところ一歩先行く存在に感じました。オリエンタルでは良い品種ができたと思っても、実際にライセンスが売れて球根が生産されない限り陽の目を見ずに終わってしまうのが現実です。今は開発途上でもユリの5年後、10年後を見据えた方針で進むフレッター社には今後も期待しています。



 写真:OT(各色)/フレッター社


       



〇バンザンテン社のオリエンタル(花粉なし)
 一方、育種から球根生産、輸出まで幅広く手掛けるバンザンテン社は日本が求める特性を有した品種を次々に発表しています。オランダやNZで自社の球根生産もしているため、(オランダの球根生産者や)世界の動向に過度にとらわれず、独自にオリエンタルを育種・生産することも可能なのです。
 昨今、バンザンテン社は切り花としての完成度が高く、新たな特徴を有したものを開発しています。LA並みに極早生のオリエンタル(ラピッド シリーズ)や、八重のオリエンタル(ダブル リリー)、花粉なしオリエンタル(パウダー フリー)を発表しています。それぞれ、数品種ある中から世界需要、球根の生産性や保管性、切り花の作りやすさ、リン付きや草丈、花色や向き、出荷後の切花品質保持力など、様々な試験を繰り返し行った後に計画的な生産面積の拡大につなげていきます。
 中でも、花粉なしのオリエンタルは完成度の高いものが多く、展示用のハウスで紹介されたピンクと赤に加えて、白も見出されています。育種用のハウスでは、すぐにでも皆様に使って頂きたいほどレベルの高い品種が多く見られました。今日、花粉のない品種は需要も高く、代表的な品種ピンクのバンドームだけではなく、白や赤の品種が出てくることで多様なニーズに応えることができ可能性が広がります。






写真:花粉なしOR(各色)/バンザンテン社





〇マック社のTA-ハイブリッド
 古くはあのシベリア、近年テーブルダンスやザンベジを開発したマックは今OTTAに注力しています。親となる良い特性のTを持っていることが強みで、先駆けて開発が進んでいるTAは従来のLAとは異なる進化を遂げています。TAは多様な色の品種を作り出すことが可能で、濃く鮮やかな色合いが特徴です。赤、白、黄色を始め、ピンクとオレンジは濃いもの薄いもの、紫から黒に近いものまで様々です。花弁が厚く花持ちの向上が期待されています。
さらに、リン付きが良く10-12サイズでも3リン以上付く品種もありました。加えて、以前のTAカベリは魅力的な色合いで人気が高いものの、花柄(枝)が硬く折れることが問題でした。新しい世代のTAは茎が硬く作りやすいだけではなく、枝にしなやかさがあるものを選抜しており、切花の収穫作業中の折れを改善しています。
TAは切り花の生産性が高く、花もちが良く、様々な色の品種を作ることができることから新しい使用方法の開拓が期待されます。





写真:TA-ハイブリッド(各色)/マック社



〇ワールド ブリーディング社の鉄砲ゆり
 ワールド ブリーディング社は八重、OTLA、鉄砲など開発中で、中でも鉄砲ゆりは興味深い特徴を持っています。
 日本ではボリュームがあり過ぎるオランダ鉄砲は使いづらいと敬遠されてきました。しかし、今回の訪問で見た品種は茎が硬く、葉もコンパクトで、リン付きも良いことから、日本でも十分受け入れられる立ち姿をしています。
さらに、今回発表された品種の中には、採花をするときには斜め上向きで作業が易しく箱詰めでも折れることがなく、開花時につぼみが下がり目線の高さで花が咲くものがありました。出荷までの作業性と花の使い易さを合わせ持つ良いとこ取りの品種です。

 



写真:上向き鉄砲/ワールドブリーディング社




〇リリーカンパニー社のマルタゴンリリー
 リリーカンパニー社は特殊なアジアティックなど他の育種会社とは全く異なる品種構成の会社です。訪問した際に目を引いたのはマルタゴンシリーズです。グロリオサのような咲き方で花弁は反り返り、めしべは下にむき出しになるとてもユニークな種類です。栽培の難しさや球根の保管性に問題があり、切り花の継続出荷・流通には課題が残ります。一方で、季咲きでは日本でも栽培が可能であり、ドライセールではすでに関心が持たれている、こういう品種がもし切り花でも流通できたら、今日のゆりのイメージとは全く異なる新たな展開があるかも知れません。



写真:マルタゴンシリーズ/リリーカンパニー社




〇ザボー社のローズリリー シリーズ
 現在、ゆり業界で高い注目を浴びているのが八重の品種です。その中でもローズリリーシリーズはゆりの新たな魅力を広めた代表的なシリーズです。毎年、多くの品種が発表されており、今では40種類ほどに達しています。白、ピンク、赤、薄いものから濃いもの、縁取りがあるものまで多種多様です。しかし、枝が横向きで硬く折れやすい、草丈が短いことや、最後まで咲かせるために12番花を咲かせてから出荷するなど、多くの課題がありました。
ローズリリーの育種ハウスを訪問すると、最新の品種では通常の栽培が可能な、コンパクトで上向きの品種が多く、今後は作業性が飛躍的に向上していきます。さらに、花弁の枚数が多くなり過ぎないようにすることで咲き易さを重視した選抜となっています。
ゆり業界に八重を浸透させ、現在の八重ブームを巻き起こしたローズリリーシリーズはニーズが多様化する時代でも、フローリストと消費者の心をつかみ、花・ゆりの魅力を伝える大切な存在となりました。新たな色展開にも注目です。



写真:上向きの白(左)、新色ワインレッド(右)
                                  /ローズリリーテストハウス




 
私が前回2年前に訪問した際はどこも競い合ってOTと八重の開発を行っていました。しかし、今回、訪問してみると各社が得意とするものに注力し、それぞれ特色ある育種・開発に進化していました。
切り花生産者の皆様に対しましては、栽培が比較的容易なOTの完成度が高くなり、花粉のないオリエンタルも各色出てきたため新たな展開が期待されます。また、付加価値の高い八重のオリエンタルもコンパクトでつくり易いものに改良されていくことで栽培や輸送時のロスが減り、より多くの方に高い品質の八重をお届けすることができるようになります。さらに、ユニークな特徴のゆりが流通することで花店の皆様の目に留まり、特長を生かしたアレンジによって、消費者を常に刺激し続ける可能性も感じられました。
「ゆり」というと伝統的な特定の数品種しか思い浮かばない時代から、多様性と夢のある時代に変化しつつあります。私たちはこれからも生産・流通・販売・消費者の皆様とともに、ゆりの新時代を切り拓いて行きたいという思いを強くした今回の出張でした。

最後に、弊社では613日(木)から16日(日)までの4日間、「6月のゆりの展示会」を開催いたします。オランダの輸出会社や育種会社の協力を得て毎年多くの(最)新品種を展示栽培しております。また、本場オランダでも見られない、“ゆりウォール(ゆりの壁)!!”を製作しております。高さ4m×幅5mの大迫力のアレンジメントにもご期待下さい。その他、農研機構大久保先生監修の香り試験もゆりへの新しいアプローチです。
皆様とお会いできることをオランダ バッカー社からの研修生ディレク君とともに、社員一同、心よりお待ち申し上げております。


以上、よろしくお願いいたします。